ビューティ・コラムcolumn

第22回 老化撲滅大作戦<その3>頑固なシワ、タルミは筋肉を弛緩させ皮膚の代謝を促進する ディスポートで治ります!!

前回、軽度のシワであれば、やビタミンAやCの外用で改善することを報告しました。さて、それでは頑固なシワにはどのような治療をすればいいのでしょうか?

まずシワがなぜ起こるかを考えてみましょう。若いときにはごく一部の人を除いて、誰でもシワはありません。図1に示した方は額に非常に深いシワがあります。

いったい何歳くらいだとおもいますか?通常であれば50歳以上にならないとこのような深いシワはできません。でもこの方はまだ33歳なのです。中学生のころからこのようなシワが額に出現してきたそうです。額の皮膚を取って調べてみましょう。大きく深くへこんでいる部位がシワです(図2)真皮に存在する、ピンク色のコラーゲンの量が大幅に低下しているのがわかると思います。この方は先天性脳回転状皮膚という非常に珍しい病気の方です。酵素の異常によりコラーゲンの産生があまりうまくいかなくなってしまう病気なのです。ほぼ同じ年齢の正常な方ではピンク色の真皮のコラーゲンが豊富にあります(図3)

これらの結果から紫外線対策をしながら、コラーゲンやエラスチンの産生を亢進させるビタミンA、Cを外用すれば、浅いシワは改善することがおわかりいただけると思います。実際に実験を行ったところ、コラーゲンが増加しました。

いつも眉間にシワをよせていると、縦にシワが入り、陰険な印象をヒトに与えます。またいつも眉を上げたりする癖を持っている方は横に平行して深いシワが何本もできてしまいます。いわゆるタコジワといわれるものです。まだ40歳の方ですが額に深い横ジワが何本もあります(図8)私はまずコラーゲンを3本注入しました。2週間後の状態を示します(図9)しかしながらまったく効果はありませんでした。さらに6本のコラーゲンを注射しましたが、ほとんど効果はありませんでした(図10)

この方の表情をよく観察すると、話しをするたびに眉が上下しています。そこで私は本来、筋肉のけいれんの治療に使用されてきた、ボツリヌス菌の毒素成分を使用してみることにしました。商品名はボトックスというものとディスポートという2種類のものがあります。

青山ヒフ科クリニックではディスポートを使用しています。この方の額にディスポートを1箇所0.05mlずつ合計1ml皮膚の下にある筋肉に注射しました。その結果、眉や額を動かす筋肉が動きにくくなり、1ヵ月後にはシワの低下が大幅に低下しました(図11)しかしながらまだ話すたびに眉が少し上下しています。

そこでもう1ml追加で注射しました。その結果、額の上下はほとんどなくなりました。さらに1ヵ月後にはシワはほとんど消失しています(図12)

この患者さんの写真で、眉と毛髪のはえぎわの間隔は常に一定です。ですから治療前の写真がわざと眉をつりあげて作ったものではないことがおわかりいただけると思います。

その後たくさんの患者さんの額に使用してきました。その結果非常に奇妙な事実に気がつきました。それは患者さんの額が妙にツヤツヤしてくるのです。私も目じりの筋肉に注射してみました。その結果、次の日から目じりの皮膚がツヤツヤしてくるだけでなく、厚くなってきたのに気が付きました。どうやらディスポートのシワ抑制作用には筋肉の動きを抑えるだけでなく、コラーゲンやエラスチンを増加させる作用がありそうなのです。

それではこのディスポートの代謝促進作用をうまく利用するにはどうしたらいいのでしょうか?私は皮膚の下にある筋肉に注射するのではなく、皮膚のきわめて浅いところに注射したらいいのではと考えました。青山ヒフ科クリニックの職員をモニターとして皮膚の浅いところにディスポートを注射しました。

彼女はもともとビタミンAやCをたっぷり塗っていますが、最近眼の下や頬のタルミや口の周りのシワに悩んでいました(図18)

そこでコメカミ、眼の下に極めて浅く注射しました。1ヶ月後には眼の下のタルミが低下し、頬のラインもよりシャープになっています(図19)さらに頬や口の周り、眉間の皮膚に注射したところ、1週間後には顔全体のハリが増加し眼の下のタルミもほぼ消失しました(図20)この注射法ですと、筋肉の麻痺作用はほとんど発揮されず筋肉の動きが抑制されたために顔の表情がおかしくなるということもありません。図21に皮膚や筋肉の構造を示しますが、従来の方法は皮下脂肪の下にある筋肉に注射する方法でした。

しかしながら、皮膚と筋肉の間には通常皮下脂肪がある程度あります。ですから真皮の浅いところに注射すると、筋肉の麻痺症状はほとんど出現しなくなるのです。ディスポートに対する感受性には個人差があります。1本で額から目じりまでカバーすることが可能です。このとき眉の動きがほとんど変わらずものたりない方と、そしてマブタも重くならず眉もほとんど動かずちょうどよい方と、マブタが重くてしょうがないという3通りの反応パターンが出現しました。そのため現在では眉や眉間の部分の注射量はやや少なめにして足りなかったら、追加するという方法をとるようにしました。そしてマブタが重くてしょうがないという方には、青山ヒフ科クリニック独自の治療法を行っています。それは低出力アレキサンドライトレーザーを額、眉間、マブタに照射し、ビタミンAやCを外用する方法です。筋肉の収縮にはアデノシン3リン酸(ATP)という高エネルギー物質とカルシウムが必要です。実は低出力レーザーには爆発的にATPを発生させるという効果があるのです。ですから有り余るATPが皮膚に存在すれば筋肉の収縮が容易となりマブタの重みは解消されるのです。しかしその効果は数日しか継続しないため、マブタの重みがまだあるという場合には繰り返しレーザーを照射します。青山ヒフ科クリニックではディスポートを使用し、マブタが重くなった方には無料でレーザーを照射しています。低出力レーザーのメカニズムについては老化撲滅大作戦その4以降で解説します。ディスポートの有効期間は約3ヶ月から6ヶ月です。この有効期間をすこしでも長くするために、ビタミンA、Cの外用やイオン導入、低出力アレキサンドライトレーザーの併用や運動が有効です。ディスポートはすでにわきの下などの多汗症の治療に使用されています。汗の分泌を促す命令の一部はベータ2アドレナリンレセプターという受容体によって汗腺に伝えられます。皮脂の分泌を促す指令の一部も同じ受容体によって皮脂腺に伝えられます。このことは、ディスポートが皮脂の分泌を抑える可能性を示唆します。実際に注射して額の皮脂が減少したと言う方もいました。では毛穴の開きがすごくて悩んでいる方の鼻に注射してみたらどうなるのでしょう?

実際に鼻の浅いところに注射してみました。1ヵ月後には、スキンスコープで観察すると毛穴が小さくなっているのが観察されます(図22,23)この結果はディスポートが毛穴の開きにも有効であることを示しています。

ディスポートやボトックスのボツリヌス菌由来の有効成分は非常に不安定です。ですから安定化させるためにアメリカ人のアルブミンを混ぜてあります。アルブミンはタンパク質の一種です。エイズや肝炎などの感染を防ぐために、もちろんアルブミンを加熱処理してウィルスの不活性化処理をしています。ですからこれらの病気に感染する心配はまったくありません。しかしながら最近話題となっている狂牛病を引き起こす異常プリオンは生物ではなく120度の加熱処理でも不活性化できません。したがってディスポートを注射することにより狂牛病に由来する変異型クロイツフェルドヤコブ病に感染する可能性は完全には否定できません。しかしながら異常プリオンの存在部位は脳や脊髄であって、血液中には通常存在しないといわれています。残念ながら実験レベルには輸血で感染する可能性が報告されています。いずれにしても米国ではヨーロッパで狂牛病の発生が報告されて即座に、ヨーロッパからの肉骨粉の輸入を停止しました。またディスポートに使用するアルブミンはヨーロッパに行ったことがあるヒトからは採取していません。またヨーロッパや日本と異なり、狂牛病に感染した牛も発生していません。もちろん米国ではヒトの変異型クロイツフェルドヤコブ病の報告もありません。ですからディスポートを使用することにより、異常プリオンが体内に入る可能性はほとんどありません。しかしながらまったくゼロといえないのが実情です。

私は必ずこの事実を患者さんに説明して同意をいただいて、同意書にサインをいただいてからディスポートを使用するようにしています。もし皆さんがディスポートやボトックスの注射を受けるのであればこのような事実をきちんと説明してくれる施設で行うべきと私は思います。メリットだけでなく必ずリスクやデメリットを説明することも大事なドクターの義務だからです。私は患者さんの肌の微妙な変化より、ディスポートが皮膚の代謝を促進する可能性を見出しました。そしてその可能性を臨床効果だけでなく、その他のシワ改善試験でも確認しました。私の知る限りでは世界初の発見です。筋肉に注射する方法と皮膚の浅いところに注射する方法を使い分けることにより、より若く美しい肌が実現します。そして私にとって最大の先生は私を信頼してくれている、大勢の患者さんたちです。これらの患者さんの存在なくしてはアンチエイジングの新しい治療法は生まれなかったことでしょう。