ビューティ・コラムcolumn

第111回 ビタミンABCとグルタチオンはストレスによる皮膚バリア機能、毛穴の詰まり、ニキビを改善 をアップしました

初めに

皮膚は心の鏡、内臓の鏡であり、心と体の状態を反映しています。人はストレスに対抗するために視床下部-脳下垂体-副腎皮質からなるHPA軸によるホルモンの流れや自律神経を制御して恒常性を維持しています。 ストレスなどにより影響を受けたホルモンや自律神経の変化により皮膚はバリア機能の低下や毛穴の開きなどの様々な症状を呈します。治療は、ストレスを減らすことと、健全なミトコンドリアの代謝の増加と同時に、皮脂分泌の中心酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼの抑制をして皮脂分泌を抑えることです。

皮膚バリア機能

皮膚の一番の機能はバリア機能を発揮することです。バリア機能とは体内の水分が対外に無制限に蒸発するのを抑制し、体外から細菌、ウィルス、ハウスダストなどが侵入するのを抑制することです。角層には フィラグリンや天然保湿因子を内部に持つ角質細胞、その周囲を取り囲むコーニファイドエンベロープと細胞間脂質があり、それらがバリア機能を営むとされてきました。最近角層直下の顆粒層に存在するタイトジャンクションが報告されました。タイトジャンクションでは表皮細胞同士がクローディンという接着分子で結合し、隣り合う細胞の膜同士がたんぱく質の糸で縫い合わされたように密着して一体となり、水分を保持できるようになっています。

上の図に示すように角層の下、表皮の最上層に存在する顆粒層の直下に表皮角化細胞同士がクラウディンという、細胞膜を貫通する結合蛋白でしっかりと縫い合わせられて、水分の出入りを抑制しています。タイトジャンクションという水分の鎧をまとうことで人の祖先は陸上に進出できるようになったのといわれています。陸上で生活するすべての脊椎動物はタイトジャンクションを持っています。クラウディンを欠損するように遺伝子を改変したノックアウトマウスは、生後脱水にて死してしまうことが報告されています。このような皮膚バリア機能の低下は加齢、ストレス、乱れた食生活、睡眠不足、寒冷時の戸外作業、水洗いなど様々な原因で起こります。

皮脂分泌

皮脂の分泌は、幼少時は少なく、思春期を過ぎると増加し、30代から40代がピークといわれその後低下します。毛穴の開きの原因は大きく二つあると推定されます。第1が皮脂分泌の増加、第2が毛穴の周囲の組織の衰えです。毛穴の開きを調べた報告では加齢とともに、毛穴が円形から楕円形のいわゆるたるみ毛穴に変化することが報告されています。これは頬のたるみの出現に伴い頬全体が重力の影響を受けるようになり下方に懸垂するために出現する現象であることが推定されています。毛穴の開きのピークは分泌が最大になる時期よりやや遅くなるという報告が目立ちます。毛穴の面積が最も大きくなるのは40代であるという報告があります。また毛穴の開きとともに、ほうれい線やマリオネットラインなどのたるみの視感スコアが増加し、皮膚の弾力は低下するとされています。これは毛穴の開きに、皮脂分泌の増加だけでなく、毛穴周囲の組織の衰えが関係しているためと僕は考えています。皮脂は皮膚の表面を覆い、撥水作用を発揮し、皮膚の水分量を増加させ、皮膚に柔軟性をもたらします。皮膚の水分量が少ないアトピー性皮膚炎が、思春期を過ぎて軽快することが多いのは皮脂分泌増加により、皮膚の水分量が増加して、かゆみが低下するためです。皮膚のバリア機能を発揮する主役が角層とタイトジャンクションで、脇役が皮脂なのです。日本だけでなく世界中で多い皮膚トラブルが“毛穴の開き”です。私が診療に従事する青山ヒフ科クリニックでも大勢の患者さんが、毛穴を小さくしたいと来院されています。 顔には大量の皮脂分泌の盛んな毛穴が存在します。 なぜ顔にこのように大量の毛穴が存在するかを考えてみました。ヒトの祖先が厳しい寒さの中、食料を求めて戸外で活動した名残であると推定されます。常に露出している顔は、毛皮で覆われた体幹や手足と異なり大量の皮脂を使用して皮脂膜を作る必要があり、大量の皮脂を皮膚の表面に届けるために多数の毛穴が要求されたのでしょう。昔と違い今は皮脂の代わりにいろいろな保湿美容液やクリームがあり、乾燥を感じたらそれを使用すればいいのです。昔と異なり、厳しい環境にさらされることのない現代では毛穴は肌トラブルの代表になってしまったのです。

ストレス、皮膚バリアと毛穴

皮膚のバリア機能は、不適切な食生活、睡眠不足、過酷な労働環境などで低下します。現代社会では皮膚のバリア機能を低下させる最も大きな原因は精神的ストレスです。試験勉強で皮膚のバリア機能が低下するという報告もあります。当然会社での仕事も皮膚のバリア機能を低下させると推定されます。ストレスはHPA軸の活性化、交感神経の活性化、皮膚独自のHPA様システムの活性化、を引き起こします。

この時血清レベルや皮膚レベルでの糖質コルチコイドの増加や、炎症を引き起こすサイトカインが増加します。これらは皮膚レベルでは皮脂分泌の増加、そして皮膚のバリア機能の低下、慢性炎症、くすみを引き起こします。ストレスを受けながらパソコンを見つめたり、イライラしながらも笑顔を浮かべて仕事をしている時には、心臓から出た血流はPCを見て判断を下す眼、脳や、キイボードをたたいたり、笑顔を維持するために骨格筋などに優先して行くようになります。同時に、これらの仕事を成し遂げるために不必要な皮膚への血流は低下し、代謝も低くなります。この状態が長く継続すると、表皮細胞の増殖や分化そして皮膚のバリア機能は低下して、乾燥肌、敏感肌の状態を呈してきます。この状態を改善するには、角質細胞間脂質や角質細胞からなる厚い角層を構築すればいいのですが、基底細胞が増殖、分化して垢になり剥がれ落ちるまで約1か月かかるといわれています。タイトジャンクションの代謝は角層よりも早いといわれていますが、それでも、今そこにある乾燥肌をただちに治すわけにはいかないのです。一番早く皮膚の乾燥状態を改善するには皮脂の分泌を増加させることです。皮脂は直接皮膚の水分を増加させる作用はありませんが、皮膚の表面を覆い、下方から上昇してくる水分を弾く撥水作用を持ち水分を角層に封じ込めて、乾燥肌の状態を解消します。交感神経緊張時では皮膚の代謝が低下し、毛穴の周囲の組織を構築する繊維芽細胞の代謝も低下して、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などの産生も低下してしまいます。すなわち、ストレスは皮脂分泌を増加させて、毛穴の周囲の組織の衰えを起こし、毛穴の開きやたるみ毛穴を起こすのです。またストレスが増加すると皮膚のバリア機能が低下して、外からの刺激に対して反応しやすくなり、肥満細胞や炎症性細胞、さらには表皮角化細胞が、IL1βなどのサイトカインやサブスタンスPを分泌して皮膚に炎症を起こしやすくなります。皮脂分泌増加に伴い皮脂を餌とするアクネ菌が増加します。アクネ菌の放出するりパーゼという皮脂を分解する酵素リパーゼが産生する遊離脂肪酸が皮膚に炎症を起こすことが報告されています。さらにヒトの免疫はアクネ菌を認識するとインターロイキン1β(IL1β)などの炎症を起こすサイトカインをマクロファージなどの免疫担当細胞や表皮角化細胞が分泌することが報告されています。IL1βは表皮細胞の増殖を促進して、しばしば過剰増殖や過剰角化を引き起こして毛穴の閉塞を起こすことが報告されています。毛穴が詰まるとアクネ菌の大好きな嫌気性環境になり、アクネ菌はキャンプファクターという菌体外毒素を産生します。この毒素は免疫反応を促進します。免疫反応で産生されるトリプターゼやカリクレインなどの蛋白分解酵素は正常な角層の産生を阻害します。これらの結果をまとめると、皮膚のバリア機能は、精神的ストレスによって低下して、毛穴の開き、たるみが起こり、ストレスの程度が高くなると毛穴の詰まりを起こすということになります。すなわち皮膚のバリア機能低下と毛穴の開き、たるみ、詰まりには正の相関関係が存在するのです。

ストレスに対してなぜこのような反応が起こるのかという疑問が生じます。反応がなければ、毛穴も開かず、皮膚のバリア機能も落ちないのです。ヒトは精神的肉体的な、自分に対する危機すなわちストレスに対して反応することで生き延びてきました。究極のストレスは餌を探している時に、クマやライオンと出会ってしまうことです。この時、闘争か逃走かという選択をしなくてはなりません。走って逃げるため、こん棒を持って戦うためには骨格筋の筋力を上げる必要があります。闘争か逃走かの判断をするために、眼、耳、脳への血流が増加する必要があります。筋肉に糖という栄養素を補給するために、心臓は拍動し、高血糖、高血圧となります。闘争や逃走に皮膚は全く役に立たないので皮膚への血流は低下してしまうのです。ストレスから逃れるために祖先が獲得した性質が今も残っているのです。この状態はエネルギーを必要とするので、長く継続するわけにはいきません。せいぜい1日が限界です。この状態が長く継続すると、疲れやすく高血圧、糖尿病になりやすくなり、皮膚の毛穴の開き、バリア機能低下による乾燥肌、敏感肌、そして慢性炎症による、シミやしわが増加してしまうのです。命の危機はないけれども、慢性的に仕事というストレスにさらされても、毛穴の開き、バリア機能低下、ニキビという肌トラブルになります。

治療

皮膚のバリア機能を増加させて、毛穴を閉じるビタミンABCとグルタチオン

皮膚のバリア機能を回復させるには、交感神経の緊張を低下させ、皮膚に行く血流を増加させて、皮膚の代謝を増加させることが必要です。交感神経の緊張を抑えるには十分な睡眠やビタミンABCやグルタチオンの摂取が効果的です。グルタチオンは皮膚科領域では保険適応外なので青山ヒフ科クリニックでは、グルタチオンと同じ効果とシステインという共通の成分を持つハイチオールという内服薬を保険適応で処方しています。これらの内服は全身の代謝を増加させ、眼の疲れ、肩こり、疲労感を軽減し、皮膚を含む全身への血流を増加します。代謝が上がり高エネルギー物質であるATPの産生が増加するとリン酸化酵素であるAMPKや若返り遺伝子であるサーチュイン(SIRT)が活性化します。代謝のマーカーでもあるSIRTやAMPKの活性化と皮膚のバリア機能には正の相関関係があります。すなわち代謝が上がるとバリア機能も増加するのです。代謝を上げるにはエネルギー生産工場であるミトコンドリアの活性を増加させ、糖質や脂質から高エネルギー物質であるATPを作り、表皮細胞の増殖、分化や繊維芽細胞の活性を増加させればいいのです。

上の図に示すようにビタミンCはカルニチンを増加させて脂質のミトコンドリアへの導入を促進します、ビタミンB群はピルビン酸のミトコンドリアへの取り込みやクエン酸回路や電子伝達系を活性化する。またレチノール( ビタミンA)はピルビン酸脱水素酵素の活性をビタミンB群と共に増加してピルビン酸からアセチルCoAへの変換を促進することが報告されています。ビタミンCは抗酸化反応に関与すると酸化してしまい抗酸化能を失います。酸化したビタミンCを還元するのはグルタチオンであり、ミトコンドリアや皮膚には大量に存在することが報告されています。すなわちビタミンABCと共にグルタチオンを内服したり、外用したり、導入することにより、ミトコンドリアはより高いATP産生能を発揮しながら、過剰な活性酸素を消去して自らのダメージを予防することが可能になるのです。またビタミンCは血管内皮細胞の一酸化窒素の産生を増加させ、透過性を低下させます。その結果血管透過性の亢進による炎症を抑制しながら皮膚のミトコンドリアに酸素、脂質、糖質そしてアミノ酸を大量に届けることが可能になり、ミトコンドリアの酸化的リン酸化反応を促進して、皮膚の代謝が増加します。一酸化窒素合成酵素の補酵素はNADPHという電子供与体ですが、ビタミンB3はNADPHという電子供与体の一部を構成して一酸化窒素合成酵素の活性を上げます。グルタチオンは酸化ストレスに弱い一酸化窒素合成酵素を保護します。さらに、グルタチオンは酸化したビタミンCを還元してビタミンCの作用を強化するのです。皮脂腺細胞はほかの細胞と同じようにアセチルCoAカルボキシラーゼという酵素を中心として皮脂の原料となる脂肪酸を合成しています。

上の図に示すように血液中の糖質や脂質はミトコンドリアに動員されビタミンABCやグルタチオンはミトコンドリアを活性化します。体内のエネルギーが過食などであり余った状態であると、ミトコンドリア内からクエン酸が細胞質に容易に移動して、アセチルCoAになります。アセチルCoAにアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)が作用するとマロニルCoAをへて脂肪酸が合成されて皮脂となって分泌されます。過食や高糖質症、高脂質食は皮脂分泌を亢進してしまうのです。ACCを抑制するのは体内のエネルギーセンサ―であるAMPKというリン酸化酵素です。AMPKはATPが減少してAMPが増加するエネルギー枯渇状態や、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)/NADHが増加すると活性化します。ミトコンドリアが活性化するとNAD+が増加します。NAD+依存性のサーチュイン遺伝子(SIRT)は活性化してさらにAMPKを活性化します。AMPKが活性化すると生命の維持に必要な代謝にのみ貴重なATPが利用されるようになります。すなわち表皮細胞の合成や繊維芽細胞の増殖に使用されるのです。表皮細胞の増殖はタイトジャンクションの健全化につながり、表皮角化細胞がしっかり結合したタイトジャンクションという防水シートで全身が覆われ水分の漏出を防ぎ陸上生存を可能にします。また繊維芽細胞が産生するコラーゲンは健全な血管の新生に必要でやはり生命の維持に直接関与するのです。ビタミンCが欠乏してコラーゲン産生が低下すると血管から血液が漏れるようになりますが、この壊血病は死に至る病気です。このようにコラーゲンの合成も命の維持に直接関係しているのです。一方皮脂は生命の維持には直接関与していないので、AMPKがACCを抑制して皮脂分泌を抑えて、毛穴の縮小が起こるのです。皮脂が欠乏しても、保湿剤を外用することで皮膚のバリア機能は保たれます。

AMPKは毛穴の開きとバリア機能の低下に悩む現代人に神様が与えたギフトなのでしょう。ビタミンABCとグルタチオンは、AMPK活性化を介して、皮膚のバリア機能を増加させ皮脂分泌を抑制、さらに毛穴周囲の組織の代謝を健全化して、毛穴の引き締まった美しい皮膚を実現するのです。

上の左はニキビと脂漏性があり皮膚のバリア機能が低下した方です。乾燥のため皮膚の表面に細かいはがれかかった鱗屑も付着しています(左)。ビタミンABCの外用後は鱗屑もなくなりニキビも消失しています。目の下のしわも消失しました(中央)。その後ビタミンABCとグルタチオンをイオン導入したところ、1時間後には毛穴が閉じ、赤みが低下しています(右)。

上の方はすでにビタミンABCを外用している方です(左)。ビタミンABCとグルタチオンをイオン導入と電子穿孔による導入で徹底的に皮膚に浸透させました(中央)。毛穴は閉じ、眼の下のクマも低下しています。ほうれい線も浅くなりました。ビタミンBCとグルタチオンを配合した毛穴レス美白ローションとレチノール(ビタミンA)の外用をした2日後です(右)。頬の赤みは軽度増加しましたが、導入直後の状態をほぼ保っています。

皮膚のバリア機能を直ちに上昇させるのは困難ですが、保湿クリームを使用することで、バリア機低下に伴う症状を直ちに改善することが可能になります。青山ヒフ科クリニックではブライトニングモイスチャクリーム、ケイコンセントレートオイル、ケイホワイトミルクミルクあるいはヒルロイドローション、親水軟膏、眼科用のワセリンなどオリジナル外用剤や保険適用の保湿剤で敏感肌、乾燥肌に幅広く対応しています。皮脂の分泌抑制は転写、翻訳などの遺伝子読み込みなどのステップがない素早い反応です。皮脂分泌抑制作用を持つものを皮膚に浸透させると数十分で毛穴が収縮することは多くの方で認められます。ビタミンABCやグルタチオンは皮脂分泌を抑制して毛穴を閉じるだけでなく、皮膚の代謝を上げて活性酸素を消去して、バリア機能を上昇させ、美白、リフトアップなどのアンチエイジング作用を発揮します。さらにリラクゼーションなどのストレスを減らす工夫や、腹8分の食事や運動などを行い、AMPKやSIRTを活性化して効率の低下したミトコンドリアを除去するマイトファジーや、ミトコンドリアを新生するミトコンドリアルバイオジェネーシスを起こすことが、効率よくATPを産生することにつながる治療のポイントです。効率よく毛穴を閉じるためには高糖質食、高脂質食を避けることも重要です。

青山ヒフ科クリニックではこれからもAMPKをターゲットとした外用剤、トリートメントを開発して”毛穴の引き締まった美しい肌”をより高いレベルで実現します。