ビューティ・コラムcolumn

第115回 カフェインの代謝促進、皮脂分泌抑制、脂肪細胞燃焼などのメカニズムとその臨床効果について

カフェインは代謝促進、皮脂分泌抑制、脂肪細胞燃焼などの多彩な作用を示しました。そのメカニズムについて解説します。

>カフェインの神経細胞の興奮作用について                    >カフェインはアデノシンという物質に構造が似ているためアデノシンの代わりに神経細胞のアデノシン受容体に結合します。アデノシンはドパミンやグルタミン酸による興奮作用を抑制します。

上の図に示すようにカフェインがアデノシンに結合することを抑制してしまうとアデノシンによるグルタミン酸やドーパミンの興奮作用を抑える作用がなくなってしまい、興奮作用が増加して眠気がなくなります。アデノシンはATPが分解して生じるエネルギーの燃えカスのようなものです。ATPが燃焼しまくってアデノシンが増加したということは神経細胞も体細胞も十分に活動した結果なのです。運動すると眠くなるのは骨格筋でアデノシンが増加してより強い鎮静作用が発揮されるということによります。

2.カフェインの脂肪細胞の燃焼作用、スリミング効果について

カフェインは以前から脂肪細胞を小さくする効果が報告されています。

これはカフェインがcAMPを介してリパーゼという脂肪分解酵素を活性化することによります。体だけでなく顔の脂肪細胞も燃焼させて小顔効果を発揮します。

 

3.カフェインの皮脂分泌抑制効果について

カフェインの皮脂分泌抑制効果が高いことに僕は驚きました。毛穴レス美白ローションを外用している方でもイオン導入で明らかに毛穴がとじ、数週間の外用でもしっかり毛穴が閉じます。そこでカフェインの皮脂分泌に対する効果を調べてみました。

上の図のようにカフェインはSREBP1,2というそれぞれ脂肪酸合成、コレステロール合成にかかわる転写因子を抑制して脂肪酸合成、コレステロール合成を抑制します。さらにカフェインはAMPKというリン酸化酵素を活性化して皮脂分泌のかなめとなるアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)という酵素の活性をおさえて皮脂分泌を抑制します。カフェインは交感神経を活性化してノルアドレナリンを増加させて皮脂分泌を抑制します。交感神経が活性化すると皮脂分泌が増加するイメージがありますが、これは男性ホルモンが増えるためです。具合のいいことにカフェインは5αリダクターゼという男性ホルモンを活性化する酵素を抑制して皮脂分泌を抑えます。さらにカフェインは炎症を起こす活性酸素を消去するSODをSTAT3を介して活性化して炎症を抑えます。STAT3はサイトカインやカフェインなどのシグナルを細胞膜から核に伝える経路です。カフェインは炎症性細胞に直接働いて過剰な活性酸素やサイトカインの産生を抑制して炎症を抑えます。炎症で生じるサイカインや蛋白分解酵素は皮脂腺を刺激して皮脂分泌を亢進させます。ニキビが治りにくいのも、炎症で皮脂分泌が亢進しているからです。このようにカフェインは炎症を抑えて皮脂分泌を抑制する作用を持っています。上の図に示すようにカフェインは様々なメカニズムで皮脂や細胞内中性脂肪、コレステロールの合成を抑制します。また、脂肪の合成を抑制して分解するリパーゼの活性を増加させるので、強いスリミング効果も生じます。顔や全身の余分な皮下脂肪を分解して、皮脂分泌を抑え、後述するようにミトコンドリアにおける脂肪燃焼を促進するという理想的な対脂肪効果を示します。これは運動したのと同じ効果を発揮したためです。数年前までカフェインを運動前に摂取することはドーピングの対象になっていました。ただ効果を発揮するためにはあまりにも大量の摂取が必要なためドーピングリストからはずれました。カフェインを摂取して運動するとつかれにくい、筋力、骨格筋の量の増加が報告されています。これはカフェインの細胞活性化効果を反映しています。

ビタミンABCやグルタチオンと共にカフェインをうまく使用しましょう。

4.カフェインの血管内皮細胞、血流、ミトコンドリアに対する効果

カフェインは血管を取り巻く、内皮細胞の細胞質のカルシウム濃度を増加させて、一酸化窒素合成酵素の活性を上げて一酸化窒素の産生を上げる作用を持っています。

上の図に示すように、増加した一酸化窒素は内皮細胞の細胞骨格に作用して細胞を大きくして血管拡張、内 皮細胞の接着を強固にして透過性低下、炎症抑制、血流増加を起こします。

実はこの作用が目の周囲のクマやむくみに有効なのです。一酸化窒素が作用していない血管は、上の図のよう内皮細胞同士が離れているので、血管内の赤血球が透けて見えて皮膚は赤くなります。

上の図に示すように、ビタミンC、カフェイン、シトルリンは一酸化窒素産生増加を介して、内皮細胞を大きくして血流を増加させて末梢組織の代謝を促進する作用を持っています。内皮細胞の隙間から赤血球が見えなくなるので、皮膚の赤みは低下して白くなると同時に炎症を起こしにくくなります。これがアンチエイジングにつながるわけですね。

ビタミンC、カフェイン、グルタチオン、シトルリンなどはすべてイオン導入後に皮膚の赤みが低下して白くなります。これは上述したように内皮細胞が大きくなって血流が増加するとともに、皮膚の外から赤血球がみえなくなる血管透過性の低下によるものです。 この時炎症性細胞や液体成分も血管外に漏出しなくなり、炎症低下、むくみ低下が出現します。その機序はビタミンCやカフェインが細胞内cAMPという物質を増加させてEpac1という低分子G蛋白を活性化するためなのです。低分子G蛋白はATPのアデニンという塩基の代わりにグアニンという塩基が結合した物質で、シグナル伝達にかかわる物質です(上の図)。これらの物質は一酸化窒素合成、cAMPという共通のキイワードを持った分子です。青山ヒフ科クリニックでは一酸化窒素、一酸化窒素合成酵素、cAMPを手掛かりとして美肌を実現する可能性のある物質の探索を行っています 。下の図はそのメカニズムを示しています。これらの物質は皮膚や全身の代謝を上げて、炎症を抑制します。ビタミンCは一酸化窒素合成酵素(NOS)の補酵素tetrahydroxybiopterin を安定化して一酸化窒素の合成を促進します。カフェインは細胞内のカルシウムイオンを増加させて一酸化窒素の合成を促進します。ビタミンB3やグルタチオンはNOSの補酵素として働き一酸化窒素の合成を促進します。最近運動やビタミンCがAMPKというリン酸化酵素を活性化してNOSをリン酸化して運動後ただちに血管を拡張させる働きを持つことも報告されました。 

 

5 カフェインの抗炎症作用、炎症老化防止作用

炎症は外からの異物を除去するために無くてはならないものです。しばしば炎症は過剰になり、異物だけでなく、変性した自己成分や変性していない自己成分にダメージを与え炎症による老化を引き起こします。実は皮膚の赤みや毛穴の開きや、しわ、たるみ、も弱い炎症で起こっています。外から入ってきた異物を検出する監視装置として細胞内にあるインフラマソム(上の図ではinflammasome)があります。  インフラマソムは活性化してIL1というサイトカインを産生します。カフェインは炎症を引き起こすNLRP3というセンサーを持ったインフラマソムの過剰なサイトカインの産生を抑制して炎症老化を抑制するだけでなくアンチエイジング作用を引き起こすオートファジーを促進します。カフェインはNF-kBという転写因子を抑制してインターロイキン1などの炎症を起こすサイトカインの産生を抑制します。その結果活性酸素の産生や蛋白分解酵素の産生も抑制され炎症は抑制されます。カフェインはSODなどの活性酸素を消去する酵素を活性化して、炎症を抑えます。カフェインを使用している方の肌が白くなり毛穴が閉じて透明感のある肌になったのはカフェインの炎症を抑える効果、代謝を上げる効果、皮脂分泌を抑える効果によるものです。免疫反応の中心となるマクロファージといういう細胞があります。カフェインはマクロファージの過剰な活性酸素の産生やサイトカイン産生は抑えるけれども異物排除の本質的な役割である、細菌やウィルスを細胞内に取り込んで無毒化するという貪食反応は強化します。実はこの作用はビタミンCと全く同じ反応なのです。インフラマソムやNF-κBを抑えて、炎症性老化を抑制するという作用も、動脈硬化や糖尿病そして発がんを炎症を抑えて抑制するビタミンCと全く同じ作用です。ビタミンCと同等の作用を持つ物質は身近なところに存在するのです。

その3 カフェインの代謝促進、皮脂分泌抑制、脂肪細胞燃焼などのメカニズムについて  

6.カフェインとビタミンABCグルタチオン、シトルリンを比較して

カフェインは実に多彩な作用を持ち、これからの美容皮膚科的アプローチの主役の一つになると思います。

コーヒーにはカフェイン、ビタミンB3やクロロゲン酸が入っています。生コーヒーエキスはこれらの成分すべてを含んでいます。クロロゲン酸は植物が種子を保護するために配合されたポリフェノールで強い抗酸化作用を持っています。クロロゲン酸は直接活性酸素を消去する作用を持っており、カフェイン同様にメラニン産生を抑制する作用コラーゲンの分解を抑制する作用を持っています。 ビタミンB3は強力な代謝促進作用と抗酸化作用をNADHPという電子の供与体を介して発揮します。またこれら3つの作用はすべて皮脂分泌を抑制します。

非常におおざっぱでありますが、ビタミンABCやグルタチオン、カフェインや生コーヒーエキスそしてシトルリンの作用についてまとめてみました。シトルリンは血管拡張、血管透過性低下作用が強いように感じました。ビタミンABCやグルタチオンは強いミトコンドリアの活性化、代謝促進作用を発揮します。そしてカフェインは血管拡張、血管透過性低下、ミトコンドリア活性化や皮脂分泌抑制そして脂肪細胞縮小の作用を非常にバランスよく発揮しました。

 

これらの3つの成分はすでに示したように外用でも導入でも相加効果を発揮しました。これらの成分をうまく利用することが鮮やかなスキンケアを発揮します。

7. なぜアルギニンではなくシトルリンを使用したか

アルギニンもシトルリンも化粧品成分として認可されて安全性は確率しています。一酸化窒素合成酵素が作用する基質はアルギニンです。アルギニンに一酸化窒素合成酵素が作用すると一酸化窒素とシトルリンが生じます。シトルリンはアルギノコハク酸を介してアルギニンに変換します。

上の図に示すように一酸化窒素合成酵素が作用するのはアルギニンです。アルギニンは一酸化窒素によりシトルリンとなりますが、これはアルギノ琥珀酸を介してアルギニンに戻ります。そこで高濃度アルギニンのイオン導入と高濃度シトルリンのイオン導入を行いました。その結果同じように効果を発揮し色が白く、赤みが低下しました。アルギニンをイオン導入した場合、導入の最中にひりひりという刺激症状があり、導入後にはかゆみを生じました。これはアルギニンを溶解したイオン導入液の非常にpHが高くなったせいです。アルギニンもシトルリンも化粧品成分としては認可されており、低濃度を外用する場合には刺激症状はありません。

8.ハイパーエナジードリンクあるいはハイパーエナジーフードとカフェイン

もうすぐ試験や社内のプレゼンがある。ここ一発頑張るときには、ハイパーエナジードリンクというものが利用されています。成分としてはカフェイン、ビタミンB群(特にビタミンB3)、そしてアルギニンやシトルリンです。カフェインが成分となっているのは、神経細胞を刺激して、眠気が出ないようにするためです。それ以外にカフェインには大事な作用があります。それはドパミン受容体やグルタミン酸受容体を活発にしてやる気スイッチをオンにすることです。そして心臓の拍出を強化して、血管透過性を低下させ、血管を拡張して、骨格筋や神経細胞を含む全身の細胞のミトコンドリアを活性化して、代謝を上げる。そして代謝を上げることによって生じた活性酸素を効率よく消去することです。

上の図に示すように、コーヒー成分を酸化還元系に加えると、カフェイン、クロロゲン酸、ビタミンB3はAMPKを介してNrf2という還元系、抗酸化系で大事な働きをする転写因子を活性化します。Nrf2はグルタチオンの合成系やペントースリン酸回路を活性化してグルタチオンやNADPHの産生を増加します。グルタチオンは酸化したビタミンCを還元してビタミンCの量を増加させます。すなわちコーヒーの成分はビタミンC、グルタチオン、NADPHという還元系の要となる物質を増加させて抗酸化能を増強させるのです。Nrf2はダイレクトに活性酸素を消去する酵素であるSODの産生を増加させる以外に、STAT3というシグナル経路を介してミトコンドリア内のSODであるSOD2を活性化します。カフェインはPGC-1αを介してミトコンドリアを活性化して大量のATP産生をします。当然ミトコンドリア内で生じる活性酸素は増加しますが、これをSODが消去するだけでなくNrf2を介して増加したビタミンC、グルタチオン、NAPDHそしてSODも活性酸素を消去して過剰な活性酸素による酸化ダメージを起きないようにするのです。このことはこれらの成分を利用したスキンケアでもハイパーエナジードリンク摂取でも起こるのです。すなわちカフェインなどのコーヒー成分を皮膚に外用したり、イオン導入するということはハイパーエネジー成分を皮膚の細胞に飲ませるということになるのです。コーヒー成分は皮膚のハイパーエナジードリンクすなわち、ハイパーエナジーコスメの中核となる成分なのです。そしてカフェインだけでなく、ビタミンABCやグルタチオンを皮膚に与えるということは還元系の中心成分を大量に与えるだけでなく、ミトコンドリア内のクエン酸回路や電子伝達系の代謝をさらにスムーズにして、生まれたての赤ちゃんのような、あるいは毎日運動している人のような代謝を皮膚にもたらすのです。

以上お示ししたようにカフェインは皮膚のアンチエイジング、皮脂分泌抑制、毛穴縮小の主役となる成分なのです。イオン導入中や外用中にカフェインの副作用による頭痛、気分不快などの症状を呈した方はひとりもいませんでした。カフェインのイオン導入やスキンケアで血圧や脈拍は全く変動がないという方やごくわずかに血圧が増加して脈拍が増加するという方もいました。運動後は血圧が上昇して脈拍が増加します。運動後と同じ代謝促進効果をカフェインがもたらしたために血圧が軽度増加して脈拍が増加したのでしょう。

上の方にカフェインのイオン導入をしたところ色が白くなり、フェイスラインも引き締まっています。外用28日後でも引き締まっています。これはカフェインによる代謝促進効果、骨格筋の収縮効果そして、脂肪細胞縮小効果によるものです。

同じ方です。カフェインのイオン導入を行い、色が白くなり赤みが低下しました。右頬の明度指数は60.5から64.6に増加して赤み指数は15.6から11.4に低下しました。28日の外用後はイオン導入直後の明度と赤みを保っています。

眼の下のクマは外用28日後には低下しています。

こちらの方もカフェインのイオン導入後は色が白くなり、赤みが低下しています。

拡大ではイオン導入にて鼻の毛穴が縮小していることがわかります。青山ヒフ科クリニックではカフェインを主成分とする毛穴引き締めホワイトエッセンスや毛穴引き締め効果を有するソニックウオッシュピーリングコースやハイパーエナジー導入コースを開発しました。別のコラムで詳しく解説します。