ビューティ・コラムcolumn
第127回 幹細胞やその培養液はアンチエイング作用だけでなく、くすみ、赤ら顔、毛穴の開きなどの多彩な症状を起こします
はじめに
ヒト幹細胞やその培養液は代謝を上げて肌の張りを増加させるので、アンチエイジングケアの中心となっています。
しかしながら幹細胞やその培養液は代謝を上げるだけでなく、ヒトによっては、くすみ、赤ら顔、皮脂分泌増加、毛穴の開きを起こすことがあるので注意が必要です。
以前青山ヒフ科クリニックを訪れた患者様は、ニキビのあとのクレーターに、自分の脂肪組織の幹細胞を採取して培養にて増加させ、クレーターを治すという治療を他のクリニックで行い、顔が真っ黒になったと来院されました。残念ながらクレーターは全く治ってなく、顔全体が強度の黒褐色調を呈していました。幹細胞を皮膚に注入した医師やクリニックから事前にこのようなことが起こる可能性は全く説明がなく、困っているとのことでした。僕は原因が全く分からず驚きました。
青山ヒフ科クリニックでヒト幹細胞の培養液の外用や導入療法を行い、一部の人で軽度の色素沈着などが見られました。
後述するように幹細胞はメラニン産生や皮脂分泌を増加させるFGFなどを持っているので、一部の人では色素沈着が起きるのは当然のことなのです。
幹細胞の培養液と異なり、幹細胞自体を皮膚に大量に注入したので、高濃度FGFなどが強いメラニン産生の増強を起こしてしまったのでしょう。幹細胞ないしは幹細胞培養液の治療を受ける際には注意が必要です。
結果
この度青山ヒフ科クリニックでは幹細胞のエレクトロポレーションによる導入を開始しました。
導入にあたり
クレシオ社 ペップビュープラス神経幹細胞+イデベリン
フィーチャ―セル社 CB美容ソルーション20%臍帯幹細胞+エクソソーム
アンチエイジング社 BMS97%幹細胞+エクソソーム+ヒアルロン酸
上記3つの製品をエレクトロポレーションにて顔に導入してその効果を比較しました。
すべての方で肌の張りが増加して、ほとんどの方で赤みが低下して色が白くなり、毛穴が縮小しました。一部の方ではくすみや毛穴の開きが出現しました。幹細胞は様々な成長因子を含み、代謝促進作用を発揮しますが、代謝のマーカーである肌の張りは
クレシオ<フィーチャーセル<アンチエイジング
の製品の順に肌の張りが増加しました。
興味深いことに一部の方で、エレクトロポレーション直後、あるいは美容液使用後に、毛穴が開いたり、赤みが増加したり、くすみが増加しました。
この現象は3社すべての製品で見られましたが、張りが一番増加したアンチエイング社で頻度が高い傾向がありました。一番張りが増加したアンチエイジング社の協力を得てその原因を探ってみました。
上の方にはBMS幹細胞液をエレクトロポレーションしました。張りは著明に増加しましたが、肌のクスミが増加しています。 特にほうれい線に沿って毛穴が開いています。
拡大像では肌のすくみ以外に毛穴の開きが認められます。
アンチエイジング社のBMSにはDHEA様の作用を持つ植物エキスが配合されています。DHEAはdehydroepiandrosterone の略でアンチエイジング作用を発揮しますが、20代後半から40代の女性で皮脂分泌を増加させ赤ら顔やニキビそして毛穴の開きやクスミを起こすことが知られています。
そこでDHEAを含む植物エキスを排除した 幹細胞96%培養液 に1%エクソソームを配合した原料を用意してエレクトロポレーションを行いました。クスミの増加や毛穴の開きは認められました。
拡大では毛穴の開きとクスミが確実に認められています。DMAE作用をもつ植物エキスはクスミや毛穴の開きの原因ではないようです。肌の張りは若干低下しました。
次にエクソソームなしの96%培養液を用意してエレクトロポレーションを行いました。クスミはほとんど認められません。エクソソームは幹細胞の成分の濃縮物と考えられ、エクソソームなしということは幹細胞の成分を減らしたものと考えられます。
拡大では赤みが低下して肌は白くなりましたが、毛穴はやや拡大しています。肌の張りは大幅に低下しました。これらのことより クスミや毛穴の開きは肌の張りの増加と共に幹細胞自身が持つ作用そのものであることが推定されます。
上の方にペップビュー幹細胞をエレクトロポレーションするとわずかに赤みが増加しましたがクスミはほとんど認められません。
拡大すると毛穴が拡大しています。肌の張りの増加はBMSのほうがペップビューよりはるかに強く感じられました。肌の張りは幹細胞の作用が強いと強く出現しますが、同時に一部の人でクスミや毛穴の開きが出現するようです。
僕にBMSをイオン導入すると明度が増加して、クスミは出現しません。
拡大像では毛穴が縮小して、法令線が浅くなっているのがよくわかります。
もちろん肌の張りは大幅に増加しました。このように幹細胞は肌の張りはすべての方にもたらしますが、一部の方にクスミや毛穴の開きを起こします。
なぜこのようなことが起こるのか調べてみました。
上の図に示すように幹細胞は表皮細胞の増殖を促進する epidermal cell growth factor (EGF)、コラーゲンの合成をする繊維芽細胞の増殖を促進する fibroblast growth factor (FGF)、vascular endothelial growth factor (VEGF)などの多彩な成長因子を含んでおり、これらの成長因子は細胞表面に存在するチロシンキナーゼ型受容体に結合して細胞内にシグナルを伝達して様々な効果を発揮します。
幹細胞の刺激はSTAT、RAS/MEK/ERK/系 、 PI3K/AKT/mTOR系などのリン酸化酵素の系を活性化します。
ここで僕が注目したのはPI3K/AKT/mTOR系です。この系はお腹一杯食事をした時に活性化される系です。この系はインスリンで活性化されるのですが、生存に必要な蛋白だけでなく、生存にあまり関係ない細胞内脂質もどんどん合成しようとします。体内の合成系のシグナル伝達をする経路の大元がmTORというリン酸化酵素なのです。
高糖質や高脂質の食事をすると毛穴が開いてニキビが悪化することは知られていますが、実はこの時mTORが活性化します。mTORは皮脂合成の要である脂肪酸を合成するアセチルCoAからマロニルCoAを合成するアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)という酵素を活性化して、皮脂合成と分泌を増加させ毛穴を開き、赤ら顔を起こし、ニキビを起こしてしまいます。
ですからACCの活性を減らすことが、ニキビや毛穴の開きを中心とした美容治療の大きな目的となっているのです。
古いミトコンドリアは蛋白の変性などが起こり、大量の活性酸素を生じるので、オートファジーという自己貪食作用で処理分解されて、再び新しいミトコンドリアとして合成されます。
ところが、外からどんどん糖質や脂質などのエネルギーが入ってくるとオートファジーなど面倒なことは止めて、豊富なエネルギーを利用してミトコンドリアを合成します。
その結果古いミトコンドリアは野放しとなり、大量の活性酸素が生じ老化の原因となってしまうのです。
オートファジーではメラノサイトで産生されたメラニンがたくさん詰まったメラノゾームも自己貪食処理されて、皮膚のメラニンが低下して皮膚の色を明るく保つのですがオートファジーが低下することにより野放しになったメラノソームが増加して肌の色がくすむ可能性があります。
すなわち幹細胞培養液は大量の成長因子を持っていますが、これが受容体に結合して細胞の増殖作用を引き起こして肌の張りやアンチエイジング作用を発揮するのですが、代謝を制御する元締めであるmTORを活性化してしまい皮脂分泌を制御するACCも活性化して皮脂分泌が増加して毛穴が開いてしまうのです。
このような状態を改善するには、AMPKというリン酸化酵素を活性化すればいいのです。
AMPKは体内のATP産生が低下するようなエネルギー枯渇状態で活性化されます。
エネルギーが枯渇しているので、表皮細胞や繊維芽細胞の増殖やコラーゲンの合成など命の維持に直接関与するもののみ合成されるようになります。
表皮細胞の増殖が低下すれば、水分の保持機能が失われ、陸上で生活する哺乳類や爬虫類などは死にたえてしまいます。
コラーゲンの合成が低下すれば、血管がもろくなり、血管から血液が漏れて死に至る壊血病が発症します。
皮脂の合成が落ちても皮膚は乾燥肌になるのみで命の維持には関係がないので、エネルギー欠乏時には皮脂合成は低下して毛穴が縮小します。
AMPKを活性化するには上の図に示すようにビタミンABC、グルタチオンやカフェインなどがあります。
幹細胞培養液がくすみやシミを起こす機序はほかにもあります。
皮膚は全身で唯一の紫外線を直接浴びる臓器です。
上の図に示すように紫外線が皮膚に照射されると表皮角化細胞や繊維芽細胞はメラニン産生刺激ホルモンαMSHやbasic FGF (bFGF)を分泌します。
bFGFはメラノサイトのFGF受容体に結合してメラニン産生を高める作用を持っています。
メラニン産生を増やして紫外線による皮膚のダメージを減らす反応が起こるのです。
血管内皮細胞成長因子(VEGF)やインスリン様成長因子1(IGF1)も分泌され、ある程度の炎症を起こしつつ代謝を盛んにして、紫外線でダメージを受けた皮膚の修復を急いで行います。
この際に過剰な炎症から組織を守るために、αMSHが増加して活性酸素を消去するためにメラニンが増加するのです。
これらの成分は幹細胞の培養液中にもたっぷりあります。
ですから幹細胞培養液の導入や外用で肌がくすむことがあるのは当然という結果になります。
これらFGF、 VEGF、IGF1も幹細胞培養液に豊富に含まれているのです。
上の図は紫外線照射を浴びるとケラチノサイトより分泌が増加されるFGFの作用を示しました。
FGFはメラノサイトに作用して、MITFという転写活性化因子を活性化してチロジナーゼなどメラニン産生をする酵素の活性を上げてメラニン産生を増加させるだけでなく、ケラチノサイトのFGF受容体を刺激してメラノサイトで産生されたメラニンをケラチノサイト内に取り込む貪食作用を強化して、ケラチノサイト内のメラニンを増加させ、皮膚の黒褐色化を促進します。
FGFで刺激されたFGF受容体はケラチノサイトや皮脂腺細胞のprotease activated recertor-2(PAR2)という蛋白分解酵素の受容体を活性化します。
その結果ケラチノサイトにおけるメラニンの取り込みが増加して、皮膚はますます黒くなります。
一方、皮脂腺細胞のPAR2の発現が増加すると炎症が起きて皮脂分泌が増加します。
色の黒い人種ほどケラチノサイトのPAR2の発現が強いという報告もあります。
炎症が起きると皮膚のバリア機能は低下するので、皮膚の保護作用を増加するために皮脂分泌は増加すると考えられます。
PAR2はケラチノサイトが産生するカリクレイン、肥満細胞が産生するトリプターゼ、血管内皮細胞や炎症性細胞が産生するプラスミンなどの蛋白分解酵素でも活性化します。蛋白分解酵素は炎症で増加します。
皮脂腺細胞はPAR2を常時発現して基礎レベルの皮脂分泌を維持しています。
炎症で蛋白分解酵素の産生が増加すると皮脂腺のPAR2が刺激され、皮脂分泌が増加します。
炎症の激しい赤ら顔やニキビでなかなか皮脂の分泌が減らず毛穴が拡大したままなのはそのせいです。
PAR2はメラニンの取り込みも増加させるので、ニキビ部位の色素沈着にも大きく関与しています。
今回幹細胞のエレクトロポレーションをした多くの方では、頬が赤い方もいました。
これは幹細胞のエレクトロポレーションで代謝が上がったので、組織に栄養を補給する血管が拡張したことが第1に上げられます。
第2にダメージを受けた組織を処理、修復するために、好中球や単球が血管内皮細胞同士の隙間を通り抜けて、血管内から真皮に飛び出す必要があります。
このために血管内皮細胞同士の間隔が広がりました(これを血管透過性の亢進といいます)。
血流を増加させて透過性を亢進させる成長因子として血管内皮細胞成長因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)があります。
実は幹細胞はVEGFを豊富に含んでいるのです。
幹細胞は組織がダメージを受けると活性化して組織を修復するのですが、その際に血管が拡張していれば、代謝が上がり、組織修復もスムーズに行えるのです。
上の図は平常状態の皮膚の様子を示します。平常状態では内皮細胞同士の隙間が少ないので、血管内の赤血球は皮膚の外からあまり透けて見えないので皮膚の赤みは軽度です。
幹細胞のVEGFが作用すると、血管は拡張し内皮細胞同士の隙間が増加して皮膚の外から赤血球が大いに透けて見えるようになるので、皮膚はより赤味を増加します。
幹細胞をエレクトロポレーションした場合、組織はダメージを受けていないので、組織修復のために好中球や単球が血管外に遊走する必要はありません。
血管拡張と透過性低下の両方の作用を発揮するのがビタミンCやカフェイン、あるいは赤に反応する波長532nmのグリーンジェネシスです。
幹細胞による赤味を消去する場合にはこれらの成分やレーザーを使用すればいいことになります。
青山ヒフ科クリニックでは幹細胞とビタミンABCやグルタチオンなどの成分を連続してエレクトロポレーションして、赤ら顔や毛穴の開きを伴うことなく、効率のよいアンチエイジングトリートメントを行っています。
BMSで明らかにクスミ、毛穴が開いた方ですが、ペップビューではわずかに毛穴が開いたのみの方です。
CB美容液では ペップビューより肌の張りを感じたが、BMSほどの肌の張りを感じていませんでした。CB幹細胞培養液はBMS幹細胞ほど高濃度ではありませんがある程度のエクソソームを含んできます。
CB美容液を導入する際にはペピオジェルによる鼻およびその周囲の赤みがありました。導入後に赤みは低下しましたが、わずかにクスミが増加しました。
拡大像では赤みの低下と毛穴の拡大が明らかにみとめられ、毛穴の開きやクスミの程度は
BMS>CB美容液>ペップビュー の順でした。
これは肌の張りの程度が BMS>CB美容液>ペップビュー であったのと一致しました。
優秀な美容液ほど 肌の張りが増加しますが、一部の人で毛穴が開き、クスミが出現するのはもともとFGFなどを含む成長因子が皮脂分泌増加作用やメラニン産生増強作用を持っているからと考えれば理解できます。
さらに幹細胞の成長因子はmTORとリン酸化酵素を活性化します。
mTORは満腹時などの栄養が豊富な時に活性化して蛋白の合成を促進して細胞増殖を促進するだけでなく、脂質の合成も促進して、結果として皮脂分泌が増加して毛穴が開いてしまいます。
青山ヒフ科クリニックでは代謝を上げて毛穴を閉じるビタミンABCや代謝を上げて抗酸化作用や美白作用を発揮するビタミンC、カフェイン、トラネキサム酸などを併用して幹細胞によるクスミや毛穴の開きを出現しないようにしています。
これらの成分は直接皮脂分泌やメラニン産生を抑制するだけでなく、AMPKをいうリン酸化酵素を介してmTORを抑制して皮脂分泌を抑制します。
上の方はBMS幹細胞培養液の導入でクスミと毛穴の開きが出現しましたが、ビタミンABCの導入やカフェインなどを含むアンチエイジングローションの導入を引き続き行いクスミや毛穴の開きは消失しています。
拡大するとBMS幹細胞培養液による毛穴の開きやクスミはビタミンABCやPQQやカフェイン、トラネキサム酸を含むアンチエイジングローションの導入によりこれらの症状なほぼ消失し、さらに肌の張りやツヤが増加しました。
上左は幹細胞培養液の外用やエレクトロポレーションをする前の僕です。
上右はBMS幹細胞培養液とビタミンABCやグルタチオンのエレクトロポレーションを行いこれらの成分を数か月外用した後の僕です。
眼の下のタルミが低下し、目じりのシワがなくなり、法令線が浅くなっています。
拡大像では眼の下のシワが低下し、毛穴が縮小し、法令線が浅くなっているのがわかります。
今後は幹細胞培養液そのものに美白作用、毛穴縮小作用を発揮する成分を添加してより完璧な幹細胞培養液を作り上げたいと思っています。
青山ヒフ科クリニックで幹細胞培養液の導入を行う際には幹細胞だけでなく、ビタミンABCやグルタチオン、あるいはカフェイン、トラネキサム酸、PQQを含むアンチエイジングローションの導入をぜひ併用してください。
幹細胞培養液と一緒にこれらの成分を導入することで、より高いレベルでの代謝促進と毛穴縮小、美白効果が得られます。
幹細胞培養液は代謝を上げるけれども、活性酸素の消去能が弱く、時に毛穴拡大、くすみが出現します。これらの弱点を解消するのが、ビタミンABCグルタチオンやアンチエイジングローションとの併用です。
ぜひご体験ください。