ビューティ・コラムcolumn

第128回 レチノールの作用と安全性について(第1部ビタミンAは安心して朝使用できるの?)

第1部ビタミンAは安心して朝使用できるの?

 

 

ビタミンAは動物に含まれる脂溶性ビタミンのことです。野菜や植物からはビタミンAの前駆体であるβカロチンが中央で切断されてレチノールになります。皮膚の表皮細胞内ではレチノールにパルミチン酸が結合してパルミチン酸レチノールという形で保存されます。皮膚に保存されるレチノールの90%以上がパルミチン酸レチノールです。その理由として極めて安定であることが挙げられています。パルミチン酸レチノールはエステラーゼという酵素でパルミチン酸が切断された後にレチノールになり、レチノールデヒドロゲナーゼ1,2という酸化酵素の作用でレチナールを経てレチノイン酸になり、効果を発揮します。レチノイン酸は細胞の核内にある受容体に結合して効果を発揮します。

 

ビタミンAの主な作用は下の図に示します。外用するとひりつくという作用が時に出現します。刺激作用はレチノールやレチノイン酸によるのです。パルミチン酸レチノールは非常に安定で皮膚に対する刺激性が少ないという特徴があります。皮膚に吸収され通過すると刺激性がなくなります。パルミチン酸レチノールはレチノイン酸に比して活性が低いという特徴があります。活性の低さを超高濃度とすることでカバーし、レチノールデヒドロゲナーゼは、ビタミンB3依存性の酵素なのでビタミンB3を一緒に外用することで、レチノールデヒドロゲナーゼの活性を増加して効率よくレチノイン酸に変換するようにしました。刺激性がないが、速やかに高い効果を発揮するように設計しました。刺激のない形で体内に入れて、皮膚で代謝により構造変化させて効果を発揮させるというレチノールからレチノイン酸への流れを、プロドラッグの形態として発想しました。

ビタミンAは表皮細胞の増殖の促進、コラーゲン合成促進作用、皮脂分泌抑制作用を発揮してアンチエイジング作用や毛穴縮小作用を発揮します。レチノールが化粧品として登場して40年以上が経過しました。レチノールが一気にサンスクリーンや化粧品の成分として使用されるようになったのは2003年にJouranal of Investigative Dermatologyという皮膚科で一番権威ある雑誌にて出版された論文がきっかけです。この論文では、2%のパルミチン酸レチノールを背部に外用すると、SPF20相当のサンスクリーンと同等の、UVBによる紅斑形成を抑制すると報告されています。 この実験を持って世界の化粧品メーカーがサンスクリーンや化粧品にパルミチン酸レチノールを配合するようになりました。その後化粧品メーカーに冷水を浴びせる報告がアメリカのNational Toxicology Program から2010年に出現しました。以下はその骨子です。

 

その後2013年にアメリカの大手の医薬品メーカーであるジョンソンアンドジョンソンから反論する論文が出現しました。論文では3つのポイントを上げています。早期に光発癌を起こす可能性があるといわれた実験に使用されたマウスは

 

1. メラニンを持たない

2. 皮膚が薄い

3. 皮膚にビタミンCなどの抗酸化物をあまり持たない

 

メラニンは紫外線を吸収するだけでなく活性酸素を消去する作用もあります。メラニンを持たないマウスは紫外線に対して非常に敏感になるだけでなく、皮膚が薄いのでレチノールが過剰に吸収されてしまいます。マウスは皮膚のビタミンCが少ないので紫外線のレチノールに対する変性や酸化効果を抑制することが困難になります。

 

さらに、ヒトの皮膚にパルミチン酸レチノールを外用して紫外線を照射して発癌性を検査するという実験は倫理上の問題がありできませんが、以下の理由でパルミチン酸レチノールは安全であると主張しました。

 

これらの結果をまとめると、以下のようになります。

 

パルミチン酸レチノールはサンスクリーンを使用すれば朝でも安心して使用できるということです。

マウスの皮膚にパルミチン酸レチノールを外用した場合の模式図を示します。外用後に紫外線にあたるとメラニンがないので皮膚に大量の活性酸素が生じます。パルミチン酸レチノールも紫外線同様に皮膚に大量に吸収されます。波長325nmのUVAを良く吸収するパルミチン酸レチノールは紫外線のエネルギーを吸収して分子のエネルギーが増加します。この時に活性酸素が存在するとパルミチン酸レチノールに結合してしまい、パルミチン酸レチノールが活性酸素と同じ性質を持つようになります。周囲の蛋白や遺伝子にダメージを与え脂質を酸化します。遺伝子のダメージは発癌を引き起こします。

前述した2%パルミチン酸レチノールがSPF20程度のUVBによる紅斑形成抑制作用を示したという報告は、UVBを使用した実験です。パルミチン酸レチノールが325nm のUVAを吸収するけれども、UVBは比較的吸収しにくいために光子による励起が起きにくく、パルミチン酸レチノールの光変性や光酸化が起きにくいために、UVBに対して優れた紅斑形成抑制作用を示したのかもしれません。 

上にレチノールの構造を示します。左の6環状構造から炭素の1重結合と2重結合からなった鎖が右に伸びています。炭素同士が1重構造と2重構造を繰り返すのを共役二重構造といいます。この結合は極めて不安定で紫外線の光子による刺激を受けると分子構造を変えずに2重結合の部位が移動します。鎖の橋のCH2OHより水素原子や水分子を放出します。水素原子は周囲の物質を還元するので、抗酸化作用を発揮し炎症を抑えます。一方6環構造の2重結合の部位は周囲から水酸ラジカルなどを吸収して周囲の物質を酸化する向酸化作用を発揮し炎症を起こします。すなわちビタミンAは紫外線を照射されると活性酸素を消去する性質と活性酸素を生じる2つの性質を持っているのです。ビタミンAが活性酸素としての働きを生じるには、紫外線とビタミンA周囲の活性酸素が必要なのです。したがって、紫外線を浴びないこと、皮膚に活性酸素を生じないようにビタミンCやビタミンEそしてグルタチオンなどの抗酸化物質大量にあれば、ビタミンAは皮膚に外用しても活性酸素としての性質を発揮しないようになるのです。

ヒトでビタミンCを一番多く含む部位は皮膚、特に外側にある表皮に65㎎/100gと非常に多く含まれています。 心臓が鼓動するにもビタミンCは必要のですが、皮膚には心臓の10倍以上のビタミンCが含まれているのです。なぜ皮膚にビタミンCが多く存在するのか? それは紫外線により生じた活性酸素を消去するためです。ヒトではマウスと異なりビタミンCが非常に豊富に含まれるので、ビタミンAすなわちレチノールを皮膚に外用してもレチノールが活性酸素の影響を受け向酸化物質としての作用を発揮して遺伝子の変異を起こし発癌を引き起こすことはないのです。

皮膚、得に表皮にはSODやカタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼという活性酸素を消去する酵素が豊富に存在しており、紫外線により生じた活性酸素を速やかに消去します。解糖系のグルコース6リン酸やミトコンドリア内のクエン酸回路の酵素も非常に多く含まれ、紫外線によりダメージを受けた皮膚を速やかに回復します。

ヒトの皮膚にABC-G repair serum を外用した場合の模式図を上に示します。ヒトの皮膚は厚く外用後パルミチン酸レチノールが吸収される量はマウスに比してわずかです。皮膚にもともと存在する抗酸化剤以外にABC-G repair serum に含まれる、ビタミンC、ビタミンB3(ナイアシン)、グルタチオンも抗酸化作用を発揮して、紫外線により皮膚に活性酸素が生じるのを強力に抑制して、パルミチン酸レチノールが向酸化作用を発揮するのを抑制します。パルミチン酸レチノールはレチノイン酸に変換されて表皮の増殖やコラーゲンの合成を促進し、さらに皮脂分泌を抑制して毛穴を縮小します。パルミチン酸レチノールは人ではSPF20を発揮してUVBによる紅斑形成を抑制して代謝促進作用を発揮します。パルミチン酸レチノールだけ外用しても朝でも酸スクリーンを併用すれば安心です。ABC-G repair serum の場合配合されたビタミンC,ビタミンB3、そしてグルタチオンがさらに抗酸化作用を発揮するので、サンスクリーンを併用すれば、全く安心して晩だけでなく、朝も使用できます。